会社員をしながらキッチンカーで副収入7万円!絶品キューバサンドを広める
会社員の石倉さんは、2019年6月から副業としてキッチンカーをスタートさせました。どこにでも行けて、いろんな人に会えるキッチンカーでの副業を、大いに満喫しているといいます。もともと、飲食業のノウハウがまったくなかった石倉さん。一体、どのようにしてキッチンカーを営業できたのでしょうか?約1年間の準備期間に迫ります。
34歳 女性
キッチンカー歴4カ月
アメリカの大学を卒業後、日本で就職。しかし、留学中に食べたキューバサンドの感動が忘れられず、副業としてキッチンカーをスタート。現在は平日は会社員として、週末はキッチンカーでキューバサンドを販売。副収入7万円を手に入れている。
- 副業でキッチンカーをはじめた経緯
- オープンするまでの道のり
- 仕入れから営業までキッチンカーの1日に密着
- キッチンカーの初期投資と営業収支
- キッチンカーを副業で成功させる秘訣
- キッチンカーのメリット・デメリット
副業でキッチンカーをはじめた経緯
アメリカの大学に通っていた石倉さんは、訪れたフロリダである食べ物に出会います。それがキューバサンドでした。
「キューバサンドは、マリネした豚肉やハム、チーズなどをフランスパンに挟み、バターを塗って焼いた料理です。日本では見慣れない食べ物だと思い、買ってみたんです」
キューバサンドを食べた石倉さんは、衝撃を受けたと言います。
「美味しくてびっくりしました。自分でも作ってみたいと思い、その場でお店の人にレシピを聞きました」
日本ではあまり知られていないこの食べ物を広めるため、「いつか飲食店をやってみたい」という夢が石倉さんの心の中に芽生えます。
しかし、大学卒業後は、日本で英語教育の企業に就職。飲食業とは違う道に進みますが、会社のスタッフに自作の料理を振る舞うなど、「自分の作ったものを食べて、幸せになってほしい」という思いは消えませんでした。
そんなとき目にしたのが、ジョン・ファヴロー監督の映画「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」。キューバサンドをキッチンカーで販売する物語です。
「映画を見たことで、再びキューバサンドへの情熱が蘇ってきました。そして映画と同じように『キッチンカーなら私でもできそう!』と思ったんです」
それが、2018年5月のこと。石倉さんは早速、キッチンカーを運営している会社に「キューバサンドを売りたい」という問い合わせメールを送ります。ところが返事は思わしくないものでした。
「5、6件の会社にお問い合わせしましたが、いずれも『キューバサンドは売れない』というお返事でした。ビジネスではよく、"売れるものと、売りたいものは違う"と言われます。現場の人から見たら、キューバサンドは売れないものだったんでしょうね」
さらにその際、キッチンカーの車両代が400万~500万円かかることを知ります。石倉さんの想定をはるかに上回る数字でした。いきなり手詰まりに‥‥そう思った矢先、運良く友人からキッチンカーをしている人を紹介されます。
「その方は、実店舗でお肉屋さんをしながら、キッチンカーをされている方でした。まず見学させてもらい、それからキッチンカーの営業をお手伝いさせてもらいました。するとその方が、『本当にやりたいなら、この人に会ってみるといい』と紹介してくれたのが、『アイドゥ』だったんです」
アイドゥは、移動販売のスペシャリスト・平山晋氏が代表を務める、移動販売独立支援ネット。石倉さんは、アイドゥが主催するゼミに参加し、ついに、キッチンカーの営業に向けた具体的な一歩を踏み出します。
「アイドゥであらためて車両の見積もりを取ってもらうと、120万円。この金額なら不可能じゃないと思いました」
しかし、石倉さんが開業のための初期費用に用意したのは60万円。残りの費用を工面するために、日本政策金融公庫で融資を受けることにします。
「金融公庫でお金を借りるには、どんな事業をするのか、それによってどのくらい利益が出せるのかなど、事業計画書を作成して審査してもらう必要があります。実際にやってみないことには、原価も利益もわからないので、とりあえず一度、自分で営業してみることにしたんです」
アイドゥで知り合ったゼミメンバーに「空いてるキッチンカーを貸してほしい」と直談判。さらに出店場所も斡旋してもらい、マンション内で行われるお祭りでキューバサンドを販売できることになったのです。
「後々聞くと、キッチンカーを借してほしいという私のお願いは、超異例だったそうです(笑)。それでも、アイドゥで出会った方々が優しく、協力的だったおかげでトライアルをさせていただくことができました」
オープンするまでの道のり
トライアル営業は無事に終了。石倉さんは、この経験をもとに、金融公庫に提出する書類を作成します。
「書類には、仕入れた材料や、当日の現場写真などをふんだんに盛り込んで、やる気をアピールしました。その熱意が金融公庫の方にも伝わったようで、『こんなにやったんだね!』と驚かれました。おかげさまで、すごく親身になっていただきました」
努力のかいあって、見事、審査を通過。金融公庫から100万円の融資を受けることができました。石倉さんはそのお金で念願の車両を手に入れます。
「SUBARUのサンバーという車です。現在は製造中止になってしまいましたが、床面積が広く、移動販売業者には根強い人気を誇っています」
「外装は全面黒一色。車屋さんからは『車内が暑くなるから止めたほうがいい』と散々言われたのですが、私は絶対に黒が良くて譲りませんでした(笑)。ロゴもあるので、近い内に外装に加えたいと思っています」
車両が準備できたことで、すぐにでも営業をしたくなったという石倉さん。最初の販売場所はどのように探したのでしょうか?
「またしても、ゼミメンバーにお願いして、『府中あじさいまつり』というイベントに参加させてもらうことなりました」
こうしてついに、石倉さんのキッチンカーがデビューすることになったのです。当日は10時から16時までの営業ということで、気合いを入れて50食用意。ところが、その日売れたのは、12食。決していい数字とは言えませんでしたが‥‥。
「まっさきに思ったのが、『1桁じゃなくて良かった』(笑)。自分の車でキューバサンドを作って販売できたことで、自信が持てました。お客さまからも、『美味しかった』、『ほかはどこでやるの?』など言っていただき、嬉しいことばかりが記憶に残っています」
こうして、石倉さんは約1年の準備期間を経て、キッチンカーの副業をスタートさせたのです。
仕入れから営業までキッチンカーの1日に密着
今回、10月19日(土)、20日(日)に開催された、新宿サザンテラス秋のイベント『Moon Terrace』に出店するということで、密着させていただきました。
前日までの下準備(仕入れ~仕込み)
「出店日が決まったら、約1週間前から準備を始めます。まずは食材の仕入れです。私の場合、仕入れは基本的にネット。肉のハナマサや業務スーパーなどで、豚肉、パンなどを注文します」
食材が届いたら、自宅のキッチンで仕込みをします。
キューバサンドに使う豚肩ロースブロック肉。今回は2キロ注文しました。この豚肉を、豚肉を柑橘果汁の入ったタレに半日以上漬け込み、1.5時間ほどオーブンで焼き、その後、炊飯器の保温で朝まで温めます。こうすることで、お肉のジューシーさが引き立つのです。
今回は、キューバサンドと一緒にタコスも販売するので、タコスのサルサ用の玉ねぎとトマトとピーマンも、さいの目にカット。
ボイルしたチキンは、玉ねぎやパプリカ、ピーマンと炒めながらスパイスで味付けします。
平日の日中はフルタイムで働いているため、キッチンカーの作業ができるのは基本的に夜だけだそう。
「土日に営業する場合、水~金曜の夜を仕込みに充てています。どうしても間に合わなそうなときは、仕事をしながら、野菜を切ってることもありますね」
当日の準備(搬入~開店)
そして、いよいよイベント当日。仕込んだ食材や、立て看板、パラソルなどを車に積み込み、いざ会場へ!
夕方16時頃。すでに数台のキッチンカーが営業していました。係員に誘導されて、石倉さんが到着します。
到着するやいなや、早速開店準備を始める石倉さん。
車の後方にコンロ、その横に炊飯器があります。
コンロの真上には換気扇が。
「キッチンカーには、換気扇をつけることが義務付けられています。ほかにも車載できるもの、できないものなど、いろいろ決まりがあるので、その都度、車屋さんや保健所への確認が必要です」
立て看板や、カウンターにも飾り付けしていきます。
10月ということもあって、お店の軒先は、ハロウィーン仕様です。
軒先にパラソルを出したら、お店づくりは完了。車に乗り込み、販売に備えます。
営業開始(調理~販売)
キューバサンド作りの開始です。まずはフライパンにチーズを入れ、アルミホイルをかけたらとろとろになるまで熱します。
隣で、バターを塗ったパンを焼いていきます。パンを開いてハムとピクルスを重ね、その上に豚肉を置き、仕上げは熱々のチーズ。
両面に焼き目をつけていきます
食べやすいように半分に切り分けたらキューバサンドの完成です!
美味しくいただきました。
今回のイベントは、17時頃から22時頃までの5時間の営業。これに2日間出店し、販売数は11個。売り上げは6600円でした。
「人の行き来が多く、ワクワクする場所ではありましたが、新宿にはご飯を食べる場所が多くあるため、フードトラックでわざわざ食べる人はあまりいないように感じました。でも、SNSで呼びかけて、友達や家族が来てくれたのが嬉しかったです。『初めて食べたけど美味しい』『ポテンシャルあるからもっと色んな人に食べて欲しい』と言ってもらえたので、もっと頑張りたいと思います!」
こうして、石倉さんのキッチンカーの一日が終わったのでした。
キッチンカーの初期投資と営業収支
ところで、キッチンカーの収支はどうなっているのでしょうか?気になるお金事情について聞きました。
「私の場合、車両と外装・内装費、そして炊飯器やコンロなどの設備、そのほか営業に必要な備品などすべて合わせて初期投資は150万円くらいでした」
「そのうち、100万円は金融公庫から借りられたので、自分の持ち出しは50万円程度です」
飲食の実店舗を出そうと思ったら数千万円かかることもザラ。それに比べるとキッチンカーは初期費用を抑えられるのがメリットです。しかし、家賃がかからない代わりに、出店ごとに場所代がかかります。
「出店料は売り上げの10%というのが多いですね。ときどき『出店料5000円』など、決まった金額がかかるイベントもあるのですが、そうすると売り上げがほとんど出ないときに痛手だったりします」
では、気になるキッチンカーの利益はいかほどでしょう?
「イベントの規模によって、売り上げも変わってきます。最近でいうと、マンション内のお祭りで、1日に75食売ることができました。営業時間は12~17時で、売り上げは5万2500円。食材費など差し引いて手元に残るのは、そのうち3万7500円くらい。売り上げとしては決して悪くはありませんでした」
しかし、そのお祭りで用意したキューバサンドの数は全部で200個。120個以上ものフードロスが出るという結果に‥‥。
「キッチンカーは売上予測を立てることが難しいです。特に初めて出店するイベントの場合は、どんな客層が来るかは現場に行くまでわかりません。その日も、イベントの規模感から200食は売れるだろうと見込んでいたのですが、予想が外れた形になりました。逆に、用意した50食が、早々に完売してしまい、イベントのラスト2時間くらい営業できなかったこともあります。フードロスをなくして、ちょうどよい数を準備できるようになるには、経験を積むしかありません」
キッチンカーを副業で成功させる秘訣
石倉さんが副業でキッチンカーをはじめられた1番の理由を聞いてみました。
「とにかくやってみたことですね。食材の仕入先や、価格の決め方も、全部、自分で1度やってみたから今があります。実践することで修正点も見えてきますし、わからないことが浮き彫りになります。1つ1つクリアしていけば、そのうちきっと形になるはずです」
また、石倉さんは、横のつながりも重要だと言います。
「キッチンカーを始めるときにお世話になったアイドゥのメンバーには、今もたくさんアドバイスをもらっています。仕入先のお店もそうですし、出店場所も今のところはメンバーから紹介してもらっています。今もゼミには定期的に参加していて、ほかの皆さんと、意見交換をしながら、営業の問題点を改善しています」
キッチンカーのメリット・デメリット
最後に、副業キッチンカーのメリットとデメリットを聞きました。
「メリットはやはり、初期費用を抑えて飲食業ができることです。車なのでどこにでも出店することができます。また、意外に思われるのですが、キッチンカーのお客さまのほとんどは、リピーターの方なんです。『待ってたよ!』と言われると、とても嬉しいですね。時には、1日に2回買いに来てくれる方もいるくらいです」
では反対にデメリットはどんなところでしょう。
「1つはやはりフードロスですね。実店舗なら、次の日に使い回すなどできますが、キッチンカーは1日限りの出店もあるので、そうもいきません」
さらに、天候に左右されることも。
「雨の日は、客足が遠のくので、売り上げがガクンと落ちます。また、台風の場合はイベントの中止が直前で決まったりするので、まるごとフードロスになってしまうこともあります。自然現象なのでどうにもなりませんが、デメリットではありますね」
そんな石倉さんに今後の展望を聞きました。
「最初はいつか実店舗を持つことが夢でしたが、今はキッチンカーの営業がすごく楽しいんです。売り上げよりも、いろんな場所で、いろんな人に出会い、そこで自分のつくったキューバサンドを食べてもらえることが、やりがいになっています。安定した営業をできるようになるのが今の1番の目標です」
取材・文 / 中村未来